■この本を読むことになったきっかけ
まだミステリを読み始めたばかりだったので、誰がどんな作品を書いているのか皆目分からない状態でした。
図書館に行って「とりあえず、何々殺人事件とか何々の殺人ってタイトルの本を読もう!」という行き当たりばったりな方法で見つけてきたのが、この作品でした。
■本のあらすじ
外国での仕事を終えた名探偵ポアロは、イスタンブール発のオリエント急行に乗ってヨーロッパに帰ろうとします。季節外れにも関わらず満席の列車には、出身国も性別も年齢も様々な人々が乗り合わせていました。ポワロは乗客の一人であるアメリカの大富豪、ラチェットという男から「脅迫状が来て命を狙われている。
私を守ってほしい」と頼まれますが、一目見てラチェットに嫌な感情を持ったポワロは、その頼みを断ります。
その日の夜、列車の個室の中でラチェットは刺殺されました。体には強弱様々な12の刺し傷。ポワロと現場検証した医師のコンスタンチン、ポワロの友人で国際列車会社の重役ブック氏は、乗り合わせた乗客たちの事情聴取を開始します。
「真紅のキモノを着た婦人を見た」
「従業員のボタンを見つけた」
「高価なハンカチが現場にあった」
「パイプが落ちていた」
「背の低い女のような声の車掌を見た」
などのヒントが聞けたものの、乗客たち全員に鉄壁のアリバイがありました。それは、乗客同士で保管し合っているもので崩すのが不可能なものばかり。
そんな折、ラチェットの正体が明らかになりました。彼はアメリカで起きた凶悪犯罪、アームストロング令嬢誘拐殺人事件の犯人だったのです。
今回のラチェット殺しにはこの過去の誘拐事件が絡んでいるとポワロは睨みます。
ポワロたちは熱心に事情聴取をし、次第に乗客たちがアームストロング家にゆかりのある人物たちだと判明します。そしてこの事件の犯人は、何らかの形でアームストロング家と関わっていた乗客すべてでした。
彼らは誘拐事件によって崩壊したアームストロング一家の復讐のために集い、ラチェットを殺害し、全員でアリバイを示し合わせていたのでした。
■感想、意見
ミステリには読者に対して、「フェアか」「アンフェアか」という問題が付きまといます。
フェアというのは「読み進めれば何となくでも犯人が分かる」「論理的な推理の上に成り立っている」というものです。
アンフェアとは極端に言ってしまうと「犯人は超能力を使いました!」「犯人は作中に一切登場しない誰々です」「犯人はこの本を読んでいるあなた自身です」といった感じのものです。読者が犯人というのは実際にあったような気がします。
本作は「ポワロ一行以外の全員が共犯」という奇想天外な結末で、多くの読者を驚かせてきた名作です。私自身はこの結末が非常に好きで、初めて読んだ時は驚きと同時に「あ。ミステリってこういうのもOKなんだ」とミステリというジャンルの幅広さにびっくりした記憶があります。
ミステリってもっとガチガチな堅苦しいものだと思っていたのですが、全員が犯人でも許されるんだなぁと感心してしまいました。
最近だと、偶然や勘違いが重なって事件が起こりました…みたいなミステリも多いですから、日々進化しているジャンルです。
しかし、本作はフェアかアンフェアかに分けるとしたら人によって異なると思います。全員が共犯なんて分かるか!と怒る人も少なくありませんので、アンフェアと判断する人もいるでしょう。
ですが私は『限りなくアンフェアに近いフェア』だと思っています。何故なら、序盤の数ページでなんとなくでも犯人が分かってしまう人がいるからです。
それはオリエント急行が「季節外れなのに満員で賑わっている」「鉄壁過ぎるアリバイ」という点です。かえって怪しい。
この点で少しでも違和感を覚えたら、事件の全体像が見えてきます。そう考えると、非常にフェアなミステリと言えるのではないでしょうか。
とかなんとか言いながら、私は初回さっぱり分からなくて感心してばっかりでした。
■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など
物語のタイトルにもなっているオリエント急行ですが、1883年から2009年まで実際に走っていました。
経路は様々でしたが、ヨーロッパとバルカン半島を結ぶ豪華列車として人気を博しました。『オリエント急行の殺人』の舞台となったワゴン・リ社のオリエント急行は2009年に定期便が廃止されましたが、世界中にオリエント急行と名の付く豪華列車はたくさんあるようです。中国にもチャイナ・オリエント急行というものがあるようです。
ちなみに現在は、ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレスという名前でパリやロンドン、ベニス、イスタンブール、ブタペストなどを結ぶ豪華列車が走っています。
日本でも寝台列車の旅が近年人気を集めており、何十万もする豪華列車がありますね。一度でいいからこういう豪華な寝台列車で旅行をしてみたいものです。
■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン
私が最も好きなのは、ラストの数ページ。乗客全員を集めて事件の真相を話すシーンです。
いかにも名探偵!といった犯人当てシーンなのですが、先述した通り「全員が犯人」という話ですので、ポワロが一人一人の素性を暴露していく場面は、非常にワクワクしてきます。ポワロが淡々としている分、余計にこっちは熱くなってしまいます。
また、ポワロは捜査中も「ちゃんとはっきりしたことが分かるまでは何も言えない」と簡単に推理を口にしない探偵ですので、終盤になるまで余計な推理が入り込まず真相に集中できます。
中でも、おしゃべりおばさんとしか見てなかったハッバード夫人の正体には驚かされました。
アームストロング家に縁がある人物というのは間違いないのですが、どういうポジションの人物かは実際に読んでからのお楽しみという事で…
余談ではありますが、この作品は2017年冬にリメイクされた映画が全米公開されます。
ラチェット役は『パイレーツオブカリビアン』シリーズでおなじみのジョニー・デップ。
ハッバード夫人役は『バッドマンリターンズ』『ヘアスプレー』出演のミシェル・ファイファー。ドラゴミノフ夫人役に『007』シリーズのM役でおなじみのジュディ・デンチ。
他にもペネロペ・クルスなど超豪華キャストです。
日本ではいつ頃公開になるか定かではありませんが、2017年11月に全米公開ですので、日本での公開は2018年に入ってからになるのでしょうか?
映画公開前に是非原作も読んでみて下さい。