カテゴリー:小説

記事一覧

『走れメロス』を大人になって読んでみた

小説

■この本を読むことになったきっかけ

 

初めて読んだのは中学校2年生の頃の国語の授業でした。教科書に掲載されていたのですが、実はこの時。私は授業中寝てばかりで全然読んでいませんでした…。

 

そのせいで、当然ながら期末テストでは悲惨な点数になりました。点数の悪い生徒は補修を受けなければならず、この時初めて全部通して読みました。最初から読んで授業を真面目に受けていれば、補修は受けずに済んだんですがね。

ちなみに、テストの問題で「メロスはなぜ走ったのでしょうか」という問題が出ました。答えは「セリヌンティウスとの約束を守るため」なのですが、授業をさっぱり聞いていなかった私は分からなかったので「小説のタイトルが走れメロスだから」と書いて提出しました…よくこんな回答書けたなと自分のことながら恥ずかしくなります。

 

■本のあらすじ

 

羊飼いのメロスは妹の結婚式の買い物のために町を訪れていましたが、町全体が鬱々としていることに気付きます。町の老人に尋ねると、「ディオニス王の人間不信が酷くて、人々を処刑してしまう」と言いました。

政治は分からないけど正義感に溢れているメロスは、ディオニス王の暴挙が許せず突発的に暗殺を試みます。

 

当然捕らえられ、王の前に引きずり出されました。
ディオニス王は「人間はみんな自分勝手で信用なんて出来ない」と言います。メロスは「人の心を疑うのは恥ずべき悪徳だ」と反発します。

 

王はメロスを処刑しようとしますが、メロスは「妹の結婚式だけ挙げさせてほしい。3日後に必ず戻って来る。町にいる友人のセリヌンティウスを人質に置いていくから」と懇願します。

友人を人質にし3日間だけ猶予を貰ったメロスは、急いで村に帰り、妹の結婚式を挙げて翌朝暗いうちに家を出ました。

 

急げば間に合うと思っていましたが、道中山賊に襲われたり、川の氾濫に遭うなどのトラブルに見舞われます。

 

疲労困憊で身動きが取れなくなってしまったメロスは、もういっそこのまま逃げてしまおうか…セリヌンティウスを裏切ってしまおうか…という考えが浮かびます。

その時、湧き出る清水を見つけ喉を潤すと「いや、私は信頼されている。その信頼に報いなければならない」と気持ちを切り替え、一心不乱に走り続けます。

日没が近付き、町の広場ではまさにセリヌンティウスが処刑されようと磔(はりつけ)にされていました。

 

メロスはボロボロになりながらも大声で「メロスが帰って来たぞ!約束通り帰って来たぞ!」と叫びます。

セリヌンティウスの縄は解かれ、メロスは「私は一度だけ君を見捨てようとした。だから私を殴れ。そうしてくれないと、君と抱擁できない」と言い、セリヌンティウスはメロスの頬を殴りました。

そしてセリヌンティウスも「私も殴れ。私も一度だけ君を疑った」と言い、メロスは彼を殴り、二人は熱い抱擁を交わして友情を確かめ合いました。

ディオニス王は二人を姿に感動し、人を信じる素晴らしさを知り改心したのでした。

 

■感想

 

『人間失格』のイメージが強い太宰治ですが、彼の作品群の中でも比較的明るく分かりやすい短編だと思います。

 

人を信じる事の大切さ、正義と友情というテーマが全面に押し出されている、太宰の中では異色とも取れる作品です。

 

異色ですが、内容の素晴らしさと文章の美しさから、太宰治の作品の中でも非常に人気の高いものとなっています。

 

先述した通り、中学校の国語の授業で習う事もあります。中学生にもなると、友達との関係で悩むことも多い年ごろですので、友情とは何かを問うこの作品は教材として優れていると思います。

多くの若者は「友達のために自分を犠牲にして走り続けたメロスはすごい。王様を改心させて友情にも篤い素晴らしい男だ」という感想を持つ事でしょう。

 

しかし、大人になって社会の荒波に揉まれた今。改めて『走れメロス』を読むと、学生の頃とは違った感想が出てきます。私は読んでいて「果たしてメロスはすごいのだろうか?」と疑問を持ちました。

 

そもそもメロスが走らなければならなくなったのは、メロスが町の老人から王様の噂を聞き出し「なんて奴だ!とっちめてやる!」と一人で暴走し、考えなしに暗殺しようとして捕まってしまったのがすべての始まりです。

ディオニス王に「俺は命乞いなどしない!」と豪語したすぐ後に「妹の結婚式挙げたいから3日だけ待ってほしい。お願いします」と命乞いをしています。

ちょっとメロスが行き当たりばったりで自分勝手な印象を受けます。セリヌンティウスは完全に巻き込まれた形で人質にされてしまいますが、友達の自分勝手な行動の担保にされたにも関わらず、メロスを疑ったのは3日間で一度だけ…メロスよりもセリヌンティウスの方がかなり人格者なのでは、と思ってしまいました。

そう考えると、「メロスの身勝手さを許し、処刑の恐怖に震えながらもメロスを信じて待ち続けたセリヌンティウスすごい」という感想が出てきます。

 

物語はメロスの視点からしか語られていませんが、ディオニス王やセリヌンティウスからの視点で見ても面白いのではないでしょうか。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

『走れメロス』は古代ローマの伝説がモデルになっていますが、調べてみたら太宰治の実体験も作品作りに活かされているようです。

太宰の友人の檀一雄が、太宰の妻に頼まれて熱海の村上旅館へ行ったら、飲み代などが払えなくなっている太宰がいました。

 

太宰は「ちょっと師匠の井伏鱒二にお金を借りて来るから、それまで人質としてしばらく旅館にいてくれ」と檀にお願いし、井伏のところへ行ってしまいます。しかし、待てど暮らせど太宰は戻って来ません。

檀は村上旅館の主に頼み込み、支払いをしばらく待ってもらい、井伏鱒二のところへ向かいます。そしたらそこには、井伏と向かい合って呑気に将棋を指している太宰の姿がありました。

実は太宰は、何かと迷惑ばかりをかけてきた師匠に金を貸してくださいと言うのが気まずくて、なかなか言い出せずにいたようです。

そんな太宰に、檀は怒ってこう言いました。

「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね」

このエピソードから見るに、太宰治はメロス。檀一雄がセリヌンティウス。村上旅館の主がディオニス王という感じになるのでしょうか。いかにも太宰治らしい話ですね。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

『走れメロス』の書き出しです。

 

太宰治作品の書き出しは、一度読んだら忘れない強烈なインパクトがあります。『人間失格』『パンドラの匣』『きりぎりす』の書き出しが好きなのですが、それ以上に好きなのはやはり『走れメロス』です。

文章そのものはシンプルで飾り気がないのですが、だからこそ無駄が無く、読者を自然と物語に引き入れる力を感じます。

 

『走れメロス』は難しい表現などを使っていない読みやすい作品ですので、よりこの冒頭の力強さが際立っているのではないでしょうか。

 

*この記事の執筆者は浅丸千代乃さんです*

『夢を叶えるゾウ』水野敬也

小説

ついつい手にとってしまう水野敬也の本

 

この本が話題になっている頃、私はまだ読書に親しんでなかったので(汗

読んだのは出版されてから5年後でした。

 

ふざけているようで、実は人生の大切なことを再認識させてくれる要素が埋め込まれていて、フンフンと頷きながら一気に読み切ってしまう。

 

気が付けば、水野敬也の本をよく読んでます。

ちなみに今読んでいるのは『運命の恋を叶えるスタンダール』です。

これは『夢を叶えるゾウ』の恋愛バージョンですね。

 

なんかいつも、言葉巧みに動かされてしまうんですよね。

 

『夢を叶えるゾウ』は、ごく普通のサラリーマンの僕の元に変な神様ガネーシャが突然やって来て、一日1つずつ課題を与えられることになり、その課題をこなしていくことで、僕が少しづつ成長していくストーリーです。

 

「この本を読んだだけじゃ成功しないよ!」「そもそも成功する人はこういう本を読まないからね!」…という世のご意見には私も大賛成なのですが。

 

まず、人を動かせる作品って、純粋にすごいと思うんです。

それも、最初の一歩、背中を押すようなエネルギー。

 

確かに、この本を読んで、この本にある通りに実践しただけでは成功者にはなれません。それはただの真似です。

 

重要なのは情報を自分自身に還元すること。自分に何が必要なのか、見極めること。

それらがわかっている人がより深く内容を読み込めるのだろうな、と感じました。

 

自己啓発本デビューでも、成功のための実践デビューでも何でも、読んだ後に体を動かしてくれる一冊です。

 

初心者が入り込みやすいアイデア、ガイド役のガネーシャのキャラに惹き込まれます。

それにしても、なんでガネーシャは大阪弁なんでしょうね?

 

『夢を叶えるゾウ』著者:水野敬也 (357ページ)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

夢をかなえるゾウ / 水野敬也 【本】
価格:1728円(税込、送料別) (2017/8/7時点)

 

 

本の内容 あらすじ

 

“200万部を突破したベストセラー。「成功法則書を読んでも人が成功しないのはなぜか?」この疑問に対する1つの解答を用意したのが本書です。主人公は「人生を変えよう」と思っているけど、何も変えられない普通のサラリーマン。そこへある日突然、ガネーシャというゾウの姿をした神様が現れ、主人公の家にニートとして住みつき、ゲームをしては寝るだけの怠惰極まりない生活を始めます。しかしガネーシャは自信満々にこう言います。「今からワシが出す簡単な課題さえこなしていけば、お前は確実に成功する――」。主人公とガネーシャの漫才のような掛け合いで、「成功するためにはどうしたらいいか?」「そもそも成功とは?」という自己啓発書のメインテーマを説いていきます。 ”(引用:Amazon.com)

 

『夢を叶えるゾウ』のレビュー

 

とにかくガネーシャがいいキャラしてます!主人公との掛け合い?漫才?がたまらないです。アハハと笑えて、ジーンとするところもあって。

 

ガネーシャのあの説得力は果たしてどこからやって来るものなのか…?やっぱり何はともあれ「神様」だからか…?主人公はさえないし、ガネーシャもダラダラのニートなんですけど、何だかエネルギーに満ちた本でした。

 

でも、そこがこの本の要なのでしょう。ガネーシャが上から目線の高圧的な教え方だったら、読者の心には響きません。

 

関西弁で、主人公と漫才のようなやり取りを繰り広げ、ダラダラした生活を送るキャラクターだからこそ、ガネーシャに愛着や親近感が湧く訳です。

 

そういう身近な人の話の方が耳に入ってきませんか?これを思いついたアイデアは本当に素晴らしいの一言です。説得力があるのに押しつけがましくないのは、ガネーシャの存在があるからだと思います。

 

内容的には実は目新しいことはありません。ずっと昔から言われてきていることを、ガネーシャは主人公に課題として与えます。

 

ガネーシャが本当に伝えたいことは、そこに秘められた先人たちの教えや理論、そしてそれらをコツコツ実践する大切さです。

 

確かに課題は地味なものばかりなのですが、その「小さな実践の積み重ねこそが人生を変える」というメッセージはまさに目からウロコでした。

 

続けることはなかなか難しいことです。誰もがそのことを知っています。「行動」こそが結果を変えるというシンプルなことを、ガネーシャは課題として主人公に伝えつつ、私達にも教えてくれています。思っているだけでは何も変わらないですもんね。

 

ただ、この本に書かれていることを全てそのまま実行しても成功はやってきません。人生は人それぞれ、思い描く成功や幸せも人それぞれ。

 

この本は自分に何をもたらしてくれるのか考えながら読み、自分なりにアレンジすることが必要だと思います。

 

そうすれば読み終わった時、「読んだだけじゃダメだ」と自分の心の中のガネーシャが背中を押してくれるはずです。

 

読む必要がないと思われる人

 

変わった自己啓発本が苦手な人。自己啓発本に詳しく、新しい自己啓発術を探している人。小さな積み重ねがくだらないと感じてしまう人。

 

物語のキモ・ネタバレ

 

・「自分を変えたい」と願った主人公のさえない会社員の目の前に、インドの神様・ガネーシャが現れる。が、かなり風変わりな神様で、関西弁を話し、タバコを吸い、あんみつが大好き。基本的にはゲーム三昧で、主人公の家でダラダラ。

 

・そんなガネーシャが主人公に課題を与える。この課題を実践していくことで、願いが叶い、人生が変わると言う。

 

・課題は「靴を磨く」「募金をする」「トイレを掃除する」「人を笑わせる」「お参りをする」「感謝する」といった地味なものばかりだが、その全てに過去の偉人たちの教えが隠されている。ただの課題ではない。

 

・この課題の実践を通して、主人公が変わっていく物語。

 

犬神家の一族

小説 - ミステリー小説 - 小説

■この本を読むことになったきっかけ

 

かつて少年マガジンで連載していた『金田一少年の事件簿』という漫画にのめり込んで、この作品を読み始めました。

 

なぜかと言うと、『金田一少年の事件簿』の主人公、金田一一(はじめ)は、連載当初は金田一耕助の孫という設定があり、作中でも「名探偵と呼ばれた金田一耕助(じっちゃん)の名にかけて」という台詞をよく言っていたので、金田一耕助ってどこかで聞いた事があるけどなんだろう?と思い、横溝正史作品をいくつか読み始めました。

 

(※金田一耕助の孫という設定は、横溝正史の遺族からの訴えにより、途中からあまり出さなくなりました)

 

■本のあらすじ

 

昭和20年代。犬神財閥の創始者、犬神佐兵衛が他界しました。

残された遺族へ、遺産の分配や事業をどうしていくのかを書いた遺言状が用意されていましたが、これの公開は佐兵衛の長女松子の息子、佐清(すけきよ)が復員してきてから読み上げることになりました。

 

同じ年の10月。探偵の金田一耕助の元に若林豊一郎という男から「犬神家で不吉な事が起きそうだから、調べて欲しい」と依頼が来ます。

 

気になった金田一は犬神家の本拠地である那須湖畔へと赴きます。ホテルから湖を眺めていると、野々宮珠世が遊んでいたボートが沈没しかけているのを目撃し、犬神家の下男の猿蔵とともに彼女を救出します。

 

ボートには何者かによって穴が開けられており、二人の話だと他にも様々な罠が珠世に仕掛けられていたようです。

 

その後、二人と別れてホテルに戻ると金田一を訪ねて来ていた若林豊一郎が毒殺されていました。金田一は若林が働いていた弁護士事務所の古舘弁護士と会い、犬神家についての話をします。

 

犬神家顧問弁護士でもある古舘弁護士は、後日おこなわれる遺言状の公開に立ち会うことを許可してくれました。

 

ビルマから佐清が復員し、遺言状が読み上げられることになりました。しかし帰って来た佐清は顔にひどい火傷をしており、白いゴム製のマスクをすっぽりかぶっている異様な姿をしていたので、本当に彼が佐清なのかと全員が疑念を抱きました。

 

肝心の遺言は『珠世に家宝の斧(よき)、琴(こと)、菊(きく)と遺産を与える。珠世は佐智(すけとも)、佐武(すけたけ)、佐清の中の誰かと結婚すること』というとんでもないものでした。

 

3人の息子たちは遺産のため珠世をものにしようと画策します。そんな中、猿蔵の世話する菊人形の首が落とされ、代わりに佐武の生首が飾られているという殺人事件が発生します。

 

佐智も琴糸を首に巻き付けられ死亡し、佐清も凍った湖に逆さまに投げ込まれ殺されます。それぞれが斧、琴、菊に見立てられた殺人でした。

 

やがて金田一は珠世が佐兵衛の孫娘であると知り、事件の犯人も佐兵衛の長女にして佐清の母、松子であると発覚します。

 

そして、湖に投げ込まれ殺された佐清は本物の佐清ではなく、佐兵衛の隠し子の青沼静馬であると分かります。本物の佐清が現れて、静馬に脅迫されて入れ替わっていたことや、母の犯した殺人の処理をしていたことなどを告白します。

 

息子だと思っていた人物(静馬)から「俺はお前の息子なんかじゃない」と言われ、そのショックで殺害してしまった松子は、佐清が生きていたことを喜び、毒煙草を飲んで自殺してしまいました。

 

■読んだ感想

 

大富豪の遺言が引き金に起こる惨劇というのは、昔からよくあるものですが「斧(よき)、琴(こと)、菊(きく)」に見立てた猟奇的な殺人劇というのが、物語の不気味さと陰湿さを際立させています。

 

見立て殺人物というと『そして誰もいなくなった』が有名ですが、本作の見立て殺人は日本的なおどろおどろしい雰囲気を持っています。それが序盤から最後の一ページまで続くもんですから、とにかく濃厚です。

 

『犬神家の一族』はミステリ作品ですので、殺人劇のトリックがどんなものか、犯人は誰なのかを予想したりしながら楽しむという読み方も良いのですが、私の個人的なおすすめポイントは、殺人そのものの背景です。

 

なぜ事件が起きたのか、過去の因縁は何なのか…などなど、コールタールのようなドロッドロの人間ドラマが横溝正史作品最大の魅力だと思います。

 

「集落の因習」「何十年にも渡る因縁」「複雑な家系図」「愛憎絡み合う骨肉の争い」といった設定が『犬神家の一族』に限らずよく登場しますが、それをひっくるめて『横溝系ミステリ』『横溝正史風ミステリ』などと呼ばれる事もあります。近年だとそれに当たるのが、三津田信三氏のミステリ作品です。

 

 

最近のミステリ小説は人が死なないライトなものや、人間関係などを複雑にしすぎない知的なゲームとして謎解きを楽しむものなど多様化しています。

 

そのようなサラッとしたものも面白いのですが、たまには『犬神家の一族』のような腹の底にズシンと来る、読むだけで胸焼けしそうな濃い背景を描くミステリも良いのではないでしょうか。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

『犬神家の一族』は何度も映像化されています。映画が3回、ドラマが5回。金田一耕助シリーズは人気があるので、定期的にドラマなど放送されますが、本作は特に多いです。金田一耕助=犬神家の一族と思っている人も中にはいるかもしれません。

さて。物語で欠かす事の出来ない主人公の名探偵、金田一耕助ですが、多くの俳優が演じてきています。

『犬神家の一族』に限って言うと……

片岡千恵蔵
石坂浩二
古谷一行
中井貴一
片岡鶴太郎
稲垣吾郎

……以上の俳優が演じてきました。誰もが聞いた事のある有名俳優ばかりですね。世代によっても異なりますが、古谷一行さんの金田一耕助がファンの中では人気なようです。
ちなみに、『犬神家の一族』以外の作品で金田一耕助を演じた俳優さんは……

高倉健
渥美清
中尾彬
役所広司
豊川悦治
上川隆也
長谷川博己
(他多数)

……と、こちらもかなり豪華。高倉健さんの金田一耕助はオープンカーに乗っていたり、中尾彬さんに限ってはファッションがなぜかヒッピー風とかなり迷走していたようです。

私が一番好きな金田一耕助は、映画『八つ墓村』で豊川悦司さんが演じた金田一耕助です。

 

クールでニヒルでセクシーなトヨエツが、金田一役でベラベラしゃべってるというのが、不思議な感じがして癖になります。

 

個人的な趣味ですが、斎藤工さんか山田孝之さんの金田一耕助が見てみたいです。どちらも美形ですので、もっと小汚くなって頂かなくてはなりませんが……。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

横溝正史作品には必ず魅力的なヒロインが登場します。『犬神家の一族』では野々宮珠世がヒロインになっていますが、彼女の美しさの描写が読むたびに気になってしまいます。

 

「この世のものとは思えなかった」
「美人もここまでくるとかえって恐ろしい。戦慄的である」
「眼近に見る珠世の美しさはいよいよ尋常ではなかった」
「あまりの美しさを怖いと思った」

 

一応序盤に、珠世がどんな風貌をしているのか簡単な描写はありますが、基本的にこんな感じです。

小説において、美醜の描写というのは難しいものですが、ただ単純に「美しい」「醜い」「美少女」などを連発すると興醒めしてしまうことがあります。

 

しかし不思議なことに、横溝正史の作品いおいてはこのような書かれ方をしても、嫌な気がしないのです。

 

「あなたがこの世で一番美しいと思う人を想像してみて。その人よりも美人だから!」というような回りくどくない、勢いのようなものがあるからかもしれません。

 

『十角館の殺人』綾辻行人~変な館が舞台

小説 - ミステリー小説 - 小説

■この本を読むことになったきっかけ

 

ミステリが読みたくてしょうがなかった頃、何を読めば良いか分からず「とりあえず、なんとかの殺人とか、何々殺人事件ってタイトルのものを読もう」と思って手に取った作品のうちの一つです。

 

同時期に読んだもので『オリエント急行の殺人』があります。

 

特にこの作品に惹かれたのは、「変な館が舞台」というところです。

 

ミステリはある程度のリアリティも大事ですが、娯楽小説でもあるので現実では有り得ない設定も大事だと思っています。

 

この「変な館が舞台」という設定は、なんともミステリらしい有り得なさで、私の興味をそそりました。

 

■本のあらすじ

 

九州の某所に位置する角島。そこには風変わりな建築家、中村青司が建てた十角館という奇妙な館が建っていました。

 

かつては青屋敷という建物もありましたが、半年前に中村青司の妻は左手首を切り落とされた上に絞殺、使用人夫婦が殺害され、青司も焼死体で発見されるという四重殺人事件が起きて全焼してしまい、今は十角館だけが取り残されているのです。

 

当時働いていた庭師の行方は未だ不明で、四重殺人の犯人は庭師ではないかと警察は睨んでいました。

そんな中、ある大学のミステリ研究会のエラリイ、ポウ、ヴァン、ルルウ、カー、アガサ、オルツィは奇妙な事件が起きた角島に興味を持ち、旅行気分で角島に上陸しました。

一方、本土にいる元ミステリ研究会の江南(かわみなみ)のところに『中村千織は殺された』という告発文めいた手紙が届きます。

 

差出人は半年前に死んだはずの中村青司。そして中村千織とは、かつて所属していたミステリ研究会の飲み会で、急性アルコール中毒になって死んでしまった青司の娘でした。

 

突然の手紙を不審に思い、中村青司の弟にあたる中村紅次郎に話を聞きに行きます。そこで島田潔という男と出会い、手紙が誰に届いているのかを、同級生の守須(もりす)恭一の助けも借りながら調査し、過去の四重殺人そのものを探るようになります。

 

本土で四重殺人の真相が調査されている時、島では「第一被害者」「第二被害者」などと書かれた人数分のプレートが発見され、翌朝にはオルツィが絞殺死体となって発見されました。

 

部屋のドアには「第一被害者」のプレートが貼り付けられ、彼女の左手首は切断されていました。

その後、カーがコーヒーに含まれた薬物によって毒殺されます。疑心暗鬼になりながらも推理を重ね、外部からの犯行で中村青司は生きているのではないかという疑いを持ち始めます。

 

島での惨劇を知らない島田と江南は、過去の事件は「千織は青司の娘ではなく、紅次郎の娘だった。青司は妻を愛するあまり嫉妬に狂い無理心中をした」というのが真相であると結論付けた。

 

当初、島田たちも中村青司は生きていて焼死体は庭師のものだと疑っていたが、実際は中村青司が自ら灯油をかぶり火をつけたというものでした。

 

そして島ではついにルルウとアガサ、ポウが殺害されます。残ったエラリイとヴァンは館の中に隠し部屋などがあるかもしれないと、くまなく探します。予想は的中し、館の中に隠し部屋を見つけました。

 

そこには、かなりの年月が経った死体がひとつ転がっていたのです。

 

翌日、守須のところに島の所有者である親戚から電話がきます。
「島に行った“大学生6名全員”が死体で発見された」と……。

 

■感想

 

日本のミステリに新たなブームを巻き起こした、ミステリ界に衝撃を走らせた作品です。

本作は『そして誰もいなくなった』をかなり意識した作品になっており、所謂クローズドサークル物です。

 

しかしそれだけでなく、角島の大学生らの事件と、本土で島田たちが探っている過去の四重殺人事件が密接に絡み合い、それが最後に一つにまとまるという、なんとも美しい話のまとまり方をしています。

 

ミステリではほぼ御法度とも言える、建物に仕掛けられたカラクリもなんの違和感もなく受け入れられる話運びになっています。

 

さて、本作は文章で読者を騙す叙述トリックという手法を用いています。私はこれまで、それなりにミステリを読んできて叙述トリックを使った作品も色々と読んできましたが、『十角館の殺人』の叙述トリックが一番震えました。たった一行でこんなに体中がゾクっとするとは思いませんでした。

 

それだけ犯人に意外性があり、面白いどんでん返しになっています。

 

この一行の破壊力をさらに際立たせているのが、新装改訂版です。ページをめくると例の一行が出て来るように文章量を調整してあるので、ページをめくった後に衝撃を受ける事になります。心憎い演出ですね。

 

とても衝撃的で面白い作品なのですが、綾辻氏のデビュー作という事もあり、全体的に粗い印象があります。強いて挙げるとすれば「犯人の動機が弱い」という点です。

 

犯人と中村千織との関係が後半になり唐突に語られ、しかもそれが逆恨みっぽいというのが、ちょっと気になりました。

 

作中の重要人物である中村青司は、『十角館の殺人』から始まる『館シリーズ』すべてに関わっています。彼について詳しく知りたい方は是非『暗黒館の殺人』を読んでみてください。

 

かなり長い作品ですが、中村青司が何者かが分かる重要な作品になっています。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

角島に渡ったミステリ研究会の7名は、それぞれ海外の有名ミステリ作家の名前をあだ名にしています。名前の元ネタと代表作をちょっとだけ調べてみました。

・エラリィ(エラリー・クイーン)

代表作『ローマ帽子の謎』『Xの悲劇』等

・カー(ジョン・ディクスン・カー/カーター・ディクスン)

代表作『三つの棺』『緑のカプセルの謎』等

・ポウ(エドガー・アラン・ポー)

代表作『モルグ街の殺人』『早すぎた埋葬』等

・ルルウ(ガストン・ルルー)

代表作『黄色い部屋の秘密』『オペラ座の怪人』等

・アガサ(アガサ・クリスティ)

代表作『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』等

・オルツィ(バロネス・オルツィ)

代表作『紅はこべ』『隅の老人』

・ヴァン(S・S・ヴァン・ダイン)

代表作『グリーン家殺人事件』『僧正殺人事件』等

 

いずれの作家も、ミステリや幻想小説の先駆者たちです。海外ミステリも読んでみたいなと思った方は、この中のどれかをまず読んでみる事をおすすめします。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

『十角館の殺人』に限らず、綾辻行人氏の小説全般に言える事なのですが、登場人物の喫煙者率が非常に高いです。

 

セブンスターやセーラムといった、今の若者が吸わないような銘柄がバンバン出てきます。作中では煙草が凶器に使われているシーンもあり、ただのアイテムではなくミステリらしい演出に一役買っています。

 

読んでみると、登場人物のほぼ全員が喫煙者だったような気がします。探偵役の島田潔にいたっては、元ヘビースモーカーで体を悪くして以来一日に一本だけという謎のこだわりを見せています。

 

ここまで「煙草を吸う」という事にこだわっている小説は、現在に至るまであまり見た事がありません。もしかしたら綾辻氏自身が愛煙家で、煙草に並々ならぬこだわりを持っているのかもしれませんね。

 

煙草を吸うタイミングや、煙草の吸い方などがとても細かく描写されており、良い意味でマニアックさを感じます。普段煙草を嗜まない人でも、読んでいると吸いたくなってしまう……そんな魔力があります。

 

しかし、登場人物のほとんどが大学生……なのに煙草は吸うわ酒はよく飲むわと、今と比べると時代を感じます。本作が世に出たのが1987年ですので、その当時は今ほど喫煙に対する風当たりは強くなかったのでしょうね。

 

煙草は犯人が誰かというヒントでもあります。気になる方は注意して読んでみてください。