月別:2017年09月

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『もものかんづめ』で分かった友蔵の真実に衝撃・・

エッセイ

さくら家に本当にあったお話

 

ちびまる子ちゃんで有名なさくらももこさんの作家デビュー作です。

発行は1991年ということで、時代はまさにちびまる子ちゃんブームの渦中だったと思います。

 

内容としては、作者の子供時代の話からOLをしていたころの話、そして今現在の話までいろいろ。

 

昔のことをよく覚えているな~というのが一番の感想です。独特の視点にも感心しますし、伝え方にもセンスがあると思います。笑えるだけではなく、喜怒哀楽が詰め込まれているので、人間の哀しさ等も感じることができました。

 

ちびまる子ちゃんのお父さん”ヒロシ”は、このエッセイでも登場し、漫画のままの人なんじゃないかと思いました。

 

そのどれもが日常のとるに足らないことが題材となっているにも関わらず、笑えて笑えて、とにかく作者のセンスに脱帽です!

 

何でもないことを独特な視点で切り取る、さくらももこワールドの虜になった人が多いというのも頷けました。

 

ただ、毒の強さは気をつけておかないと違和感だけが残ってしまうかもしれません。

「メルヘン爺」や巻末インタビューは賛否両論あるそうで…。

 

実は私も大変ショック受けました。

ちびまる子ちゃんに登場するおじいちゃんは”友蔵”さんですね。

 

すっとぼけた爺さんですが、まる子にどこまでも甘く、でも優しいおじいちゃんです。

 

私の中では、きっとさくらももこさんの実のおじいちゃんも、こんな感じで、仲が良かったんだろうなと勝手に想像していました。

 

ところがです。

「メルヘン爺」では、実際のおじいちゃんがどんな人だったのか、事実が明かされます。

その内容がすごいんです。

 

友蔵って名前同じなんですが、漫画のおじいちゃんとはかけ離れた人物で・・

実際の友蔵さんは、家族から嫌われていました。

 

本文をそのまま引用しますと

祖父は全くろくでもないジジィであった。ズルクてイジワルで怠け者で、嫁イビリはするし、母も私も姉も散々な目に遭った。

 

ええええーーー?!マジっすか?

ショックを受けたのは私だけじゃないでしょう。

 

「メルヘン爺」では、友蔵が亡くなってお葬式のエピソードが書かれているのですが、悲しい話ではなく、むしろ台所の片隅で孫は笑っていたりします・・

 

この辺りの描写が批判を受ける要因ですね。なにせ。死に顔が面白いとか言うものですから(汗

 

相当嫌な爺さんだったのでしょう。。

 

漫画の中の友蔵さんは、さくらももこの憧れが反映され、あのキャラになっているのだそうです。

 

 

さくらももこさんのエッセイは、ほのぼの系とは別次元のものと捉えておきましょう。

 

『もものかんづめ』著者:さくらももこ(287ページ)

 

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先日読んだ雑誌、クロワッサン8/25号にたまたま「本のない、人生なんて。」という特集記事があったのです。

 

その中で、『何者』で直木賞を受賞した浅井リュウ氏が「もものかんづめ」のほか『さるのこしかけ』『たいのおかしら』さくらもものエッセイ3部作を取り上げ、”さくらさんは僕の憧れ”と絶賛。

 

「禁忌ですらも面白く!タブー無しの漢字がすごく印象的でした」自分も笑えて売れるエッセイを目指したいとおっしゃっていました。

 

 

本の内容

 

あらすじ“「こんなにおもしろい本があったのか!」と小学生からお年寄りまでを笑いの渦に巻き込んだ爆笑エッセイの金字塔!!著者が日常で体験した出来事に父ヒロシや母・姉など、いまやお馴染みの家族も登場し、愉快で楽しい笑いが満載の一冊です。「巻末お楽しみ対談」ではもう一度、全身が笑いのツボと化します。描き下ろしカラーイラストつき。 ”(引用:Amazon.com)

 

こんな育ち方や物の見方をしてくると、あの名作「ちびまるこちゃん」が生まれるのだと大いに納得しました。ばかばかしくて笑える!でも毒っ気もあって、そのバランスが絶妙です。

 

漫画家として有名な作者ですが、エッセイストとしての才能も感じます。人を惹きつける文章が素晴らしいと思いました。

 

ヒロシの鯉、さくら姉妹の水虫との闘い等お茶の間でウケそうな話もあれば、ビートたけしが家にやって来とか、普通の家庭ではあり得ないサプライズな場面は、漫画家って、やっぱりこっちより、あっちの方に近い人なんだなと感心してみたり。

 

息抜きにサラッと読めます。ですが、短編のひとつずつが読み応えのあるものです。

 

もものかんづめを読む前に注意

 

さくらももこという作家が「ほんわか系」だと思っている人は、あまりのギャップに驚くまも?と思いました。辛口コメントが苦手な人も、ただの身内への悪口のように感じて不快かもしれません。

小さなあなたへ 母として娘として

絵本

■この本を読むことになったきっかけ

 

妊娠中に通っていた産婦人科に置いてあり、手に取りました。

 

たまごクラブとかひよこクラブといった雑誌類や、子供連れで訪れる人も多かったので、幼児向け絵本が並ぶ中で「絵本なのに大人向け」という非常に存在が浮いていたのを覚えています。

 

内容を見て、これは確かに産婦人科に置いておくのは良いかも!と感動しました。

 

■本のあらすじ

 

赤ちゃんが生まれたその日から、成長し様々な経験を経て大人になり、やがてその子も親になり年老いていくまでを描いた絵本です。

母の無償の愛がいっぱいに詰まった作品です。

 

■感想

 

ストーリーらしいストーリーが無い絵本です。赤ちゃんが生まれた日から、お母さんから注がれる愛情がひたすら綴られています。

内容が内容なだけに、絵本でありながら完全に大人向けです。

 

子供が読むとしても中学生くらいからが良いかもしれません。
私は普段本を読んで泣くことが無いのですが(泣くような本を読んでいないだけなのですが)これは泣きました。

 

ですが、初めて読んだ時と現在とだと感想が少し異なります。
私が初めて読んだ時は妊娠中だったため、まだ子供はいませんでした。その時に読んだ感想は「自分は母からこんな風に愛情を注がれてきたんだな」というものです。

 

自分の大して長くも無い人生を振り返り、母が自分に何をしてくれたか、自分が母に何をしてきたか、これから母に何をしてやれるんだろう…等々色んな事を考えました。

 

次に読んだ時は出産した後です。その時は「この子もいつか大きくなって老いていくんだな。その時、この子の中で母とはどういう存在になれるんだろう」と感じました。

 

子供はいつか必ず成長し親元を離れていきます。嬉しくもあり切なくもある…そんな気持ちをこの本を読んで初めて知りました。

 

私の母もそういう気持ちだったのだろうかと思うと、良い歳なのに母が恋しくてたまらなくなります。

 

親としても子としても深く読める絵本です。

ただちょっと残念なのが、男の子のお母さんは感情移入がしにくいかもしれません。挿絵がすべて女の子なのと、なんとなく娘を対象にしているような文脈がところどころあります。

 

あと、男性が読んでも女性ほどの感動は得られないと思います。内容があくまでも「母親からの無償の愛」ですので、息子や父親の視点からとなると感情移入が難しいと思います。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

そうしていつか ながいとしつきのはてには、あなたじしんのかみも ぎんいろにかがやくひがやってくる
わたしのいとしいこ。そのときは、どうかわたしをおもいだして

 

最後の一節です。我が子が年老いた時、自分自身はもうこの世にいないでしょう。そんな時に、自分の子供が人生を振り返った時、お母さんのことを思い出してほしいと思うのは、親なら誰もが考える事だと思います。

 

また、子供の立場から見ると、それくらいの歳になると思い出の中でしかお母さんに会えないんですよね。

 

思い出の中のお母さんは自分が子供の頃のままで、いつでも溢れんばかりの愛を注いでくれます。それを懐かしいと思い返す事もあるでしょう。

 

このシーンで印象的なのが、部屋の中に生まれた時に、お母さんが赤ちゃんの指にキスをしている写真が飾ってあるという事です。

 

自分の子供が生まれた時の事を思い出しますし、自分はどんな風にして生まれて来たんだろうと考えたりもしました。

 

余談ですが、これから出産を控えている方は出産したら早いうちに(可能なら入院中に)赤ちゃんとのツーショットを撮影しておくと良いです。

 

退院しすぐに赤ちゃんとの生活が始まりますが、そうなると写真を撮る余裕が無くなってきます。

 

撮ったとしても我が子のピン写真ばっかりか、お父さんと赤ちゃん、おばあちゃんと赤ちゃん…といった感じで自分はもっぱら撮影係です。

 

お母さんとのツーショットは特別です。顔がどんなに疲れていてもスッピンで髪がぼっさぼさでも構いません。是非撮っておきましょう。

 

*この記事の執筆者は浅丸千代乃さんです*

夏目漱石『吾輩は猫である』の猫は最後に

小説

吾輩は猫である感想

 

「これってなんで猫なの?」

こんなシンプルな自分の中の疑問が、意外と深い問いかけだと思うのです。

 

なぜ、猫なのか。そこを掘り下げていくと、この小説を様々な角度から楽しめると思いました。

 

猫が見ている人間達は、まさに漱石が見ている人間達。

名前のない猫の人間観察から浮かび上がってくる人間の滑稽さが、この作品のメインであり軸となっています。

 

日がな一日寝ているだけと思っている猫に、逆に鋭く観察されているということが何より皮肉ですしね。

 

また、漢詩や落語などの仕掛けが織り込まれていたり、風刺がきいた人間模様が描かれていたりするので、歳を重ねてから読むとさらに味わい深くなる気がします。

 

古典作品ならではの取っつきにくさはありますが、そこさえクリアすれば、あははと笑い飛ばしながら読むのがベストではないでしょうか。

 

『吾輩は猫である』著者:夏目漱石 324ページ

 

あらすじ

 

“明治期の文学者、夏目漱石の最初の長編小説。初出は「ホトトギス」[1905(明治38)年〜1906(明治39)年]。1905年10月上篇が刊行されると20日間で売り切れたという。中学教師の珍野苦沙弥の家に飼われる、名前のない猫「吾輩」の目で、珍野一家とその周囲に集まる人々や「太平の逸民」の人間模様を鋭く風刺し、笑いとばす。落語のような語り口に乗せたユーモアは多くの読者を集め、夏目漱石の小説家としての地位を確立する記念碑的な作品となった。 ”(引用:Amazon.com)

 

 

さすが名作と言われる作品、100年以上経った今でも面白いです。この作品が最初に世に出たのは1905年…。100年前の小説で笑ったりできるってすごいと思いませんか?夏目漱石が文豪と言われる所以、そして素晴らしさがよくわかりました。

 

物語は猫の目線で進んでいきます。ですが、その全てが想像で書かれたものではなく、漱石自身が人間や社会に対して思っていることを反映させているのだと所々で感じます。

 

「猫」というワンクッションを置くことで、より客観的に現実を捉えようとしたのかもしれません。

 

さらに猫の目線だと、人間の滑稽さがはっきりと伝わってくる気もします。違う生き物を見る目は自然と厳しくなるのかな、と。

 

でも、その猫に任せたこと自体が、作品の一番のユーモアかなと思いました。

 

登場人物がかなりリアルなことも理由の一つかもしれません。漱石がどんな風に人間と向き合い、人間観察をしていたのかを伺い知ることができます。どのキャラクターも強烈で印象的です。

 

ジャンルとしては古典ですが、ストーリーもユーモアも、少しも古びていないところが何とも不思議です。それはきっと、どれだけ時代が流れても、人間というものは変わらないということの表れなのでしょう。

 

コミカルな中にも、作品の奥に漱石の哲学や問いかけがあります。この先もずっと日本人に読み続けられる小説です。

 

 

古典文学のユーモアは現代には通用しないと思っている人。はっきりとした起承転結を期待している人。

 

物語のキモ・ネタバレ

 

・ひとつずつが完結している11話が収録されている。

 

・語り手は、中学教師・珍野苦沙弥に飼われている名前のない猫。珍野家やその周りの人々を皮肉たっぷりに観察する。

 

・ラストが衝撃。猫はビールに酔っ払い、甕に落ち、水死してしまう。

ママがおばけになっちゃった!ちょっぴり辛口感想

絵本

■この本を読むことになったきっかけ

朝8時の『とくダネ!』で”一般書以上に絵本がベストセラーになっていると”紹介されていたのを見て、興味を持ちました。

 

女性アナウンサーの方も涙ぐんでいたので、絵本とはいえ、これは読んでみたい!と思ったのです。

 

■本のあらすじ

 

交通事故で死んでしまい、おばけになってしまったかんたろうのママ。ママはまだ4歳のかんたろうの事が気になって仕方ありません。

かんたろうはママが死んでしまった事を悲しみます。

おばあちゃんにママの年齢を65歳だと周りに言っちゃった事、ママにはなくそを食べさせちゃった事、ママのパンツを履いている事を打ち明けます。

 

そしてその日の夜12時、かんたろうはおばけになったママと再会し、悲しくて二人で大泣きします。

 

おばあちゃんが起きちゃうからと夜の散歩に出かけ、ママはかんたろうに「ママはおっちょこちょいだったけど、かんたろうを生んだのは大成功だった」「ママはかんたろうのいい所も駄目な所も大好き」と言います。

朝になるとママの姿はありませんでした。かんたろうはこれからは一人で頑張ってみると決意しました。

 

ママがおばけになっちゃった!読んだ感想

 

ママが交通事故で死んでしまうという、ショッキングな場面から物語は始まります。
親の死という非常に暗く重いテーマを、可愛らしいイラストとコミカルさで鬱々としない明るい雰囲気で読むことが出来ます。

 

ママとかんたろうくんの会話もテンポが良く、楽しく読める絵本だと感じました。

 

ここからは少々辛口になりますが、世間で評価の高い物語の内容に関しては「中途半端だな」と思いました。

子供への読み聞かせ用にしては「テーマが重く大人からの目線でずっと物語が進行する」という点が気になりました。

 

だからといって大人向けかと言うとそうでもなく、「死を通じて母から子への愛情を描いているけど深みが無い」と思いました。

子供向けにするにしても大人向けにするにしても中途半端で、読んだ後にじっくり何かを考えられるかと言うとそうでもない。

 

それは恐らく、作中の言葉の量が多すぎるからなのではないかと思います。

「ママはかんたろうが大好き」ということを、ストレートに言葉で言い過ぎてしまっていて、考える余地を読者に与えないような作りになっているような気がします。

絵本の読み聞かせは、ある一定の年齢になったら読んだ絵本について語り合うことも重要になってくると私は考えています。

 

その作業は作品に『読者に想像させたり考えさせる余地』を与えているかどうかで有意義になるかが決まります。明確な解答が無くても良いんです、考えることが大事です。

しかし本作は『読めば全部書いてある』というものですので、テーマが重い割には考えさせたり語り合うことが難しい作品です。

 

一方的に感動的な話を押し付けられておしまい、という印象を受けました。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

感想でかなり辛口に書きましたが、作中の台詞で良いなと感じたものもあります。
主人公のかんたろうくんがママに「ぼくがママのこどもでよかった?」と聞いた時にママが言った台詞です。

 

「もちろんよ!ママはかんたろうでよかった」

非常にシンプルでストレートな台詞ですが、だからこそ光る台詞だと思います。世の中のママたちの多くが共感した台詞なのではないでしょうか。

かく言う私も、あれだけボロボロに酷評しておきながらこの台詞は心から良い台詞だと思いました。

どんなに手のかかる子でも、不思議と「この子じゃなくて別の子がいい」ってならないものです。

 

それはなぜ?と問われると非常に説明しにくいのですが、この子じゃなきゃ嫌だ!と言えてしまします。もし生まれ変わっても、またこの子の母親になりたいと息子を産んでから思えるようになりました。

 

そういう気持ちが出て来ると、この台詞にとても共感を覚えます。

 

*この記事の執筆者は浅丸千代乃さんです。*