ツナグ

小説 - 映画

■この本を読むことになったきっかけ

 

かなりミーハーな理由で読み始めた小説です。2012年公開の映画版の主演が若手俳優の松坂桃李なのですが、一時期私は彼にものすごくハマっており、映画版を見る前に…と思って手に取ったのがきっかけです。

 

普段ミステリやホラーばかり読んでいるので、こういったヒューマンドラマ系は馴染みが無かったのですが、松坂桃李のためだ!とよく分からない方向にやる気が向かい、一晩で読破したのを覚えています。

 

■本のあらすじ

 

一度だけ死者との面会を仲介してくれる『使者(ツナグ)』…大人の都市伝説と言われている存在を頼りに、死者と対面する人々の物語。(本作は5つの物語から成る連作小説です)

 

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趣味も無く家族からも疎まれ、過去にはうつ病も患った孤独なOL平瀬愛美は、突然死した人気アイドル水城サヲリに会いたくて使者(ツナグ)を頼ります。

 

ファンレターの中で、死にたいと言っていた事を覚えていたサヲリは、愛美に対し「死んじゃ駄目だよ」とアドバイスをし、愛美はアイドルのすごさに圧倒されながらも、前向きに生きて行こうと決意する『アイドルの心得』。

 

自営業を営む畠田家の長男、靖彦は癌で亡くなった母親と会い、息子や弟のこと、母や身内に対して母の病名を教えなかった事は正しい判断だったのかと胸中を打ち明けます。

 

母は靖彦の悩みに丁寧に答えていき、過去に自分が使者(ツナグ)に依頼して死んだ父に会った理由も「人の親ならいつか分かる」と教えます。

 

日記によると、母は靖彦の息子を父に見せるために依頼したそうで、自分もいつかそうなるのかなと思いを馳せる『長男の心得』。

 

プライドの高い嵐と人を立てるのが上手い御園はとても仲良しの高校生。典型的なマウンティング女子の嵐は、演劇部内で人気があり、お目当ての舞台の役まで見下していた御園に奪われて気まずい関係になります。

 

その感情は大きくなり、御園の通学路が凍るように細工を仕掛けて怪我をさせようとしたら、御園は交通事故で死んでしまいます。

 

もしかしたら殺してしまったかもと思い、謝罪したくて面会しますが、またプライドが邪魔して謝る事をしませんでした。

 

御園は歩美に「道は凍ってなかったよ」と伝言するよう言い、部屋を出た嵐は歩美からの伝言を受け取り、御園は何もかも知っていた!と謝罪の機会を失い激しく後悔する『親友の心得』。

 

ひょんなことから田舎娘のキラリと出会った冴えない会社員土谷。キラリと同棲しプロポーズした直後、キラリは家を出ていきそのまま帰って来ませんでした。

 

キラリがたくさん嘘をついていたと分かっても土谷は7年間待ち続け、すがる思いで依頼をします。キラリは埼玉出身と言っていたけど実は九州出身で17歳で家出をしてきました。

 

プロポーズされたことで両親と向き合おうと、内緒で実家に帰る途中フェリー事故に遭い亡くなっていました。キラリは大好きだと土谷に告げ、土谷はキラリの遺品を彼女の両親に届けに行こうと決意する『待ち人の心得』。

 

高校生の渋谷歩美が入院中の祖母から「使者(ツナグ)」の仕事を継いでくれないかと言われ、使者(ツナグ)の仕事を手伝いながら、幼い頃に変死した両親の死の真相を明らかにしていく『使者の心得』。

 

■感想、意見

 

「死者と生者が対面する」という話は昔から様々な形で世に送り出されています。死んだ人とたった一度だけ会う…ということは誰もが想像することですし、切なく悲しい感動作になること間違いなしです。

 

所謂「売れる題材」なわけですが、本作はそういった感動一辺倒の作品とは一線を画すものとなっています。

 

それは第3章に位置する『親友の心得』の存在感によるものだと思います。他のエピソードは切なく涙を誘う内容となっていますが、『親友の心得』だけは、死者との面会がいかに複雑で難しいものかを浮き彫りにしています。

 

たった一度しかない親友に戻れる機会を自身の傲慢さによって棒に振った嵐は、激しい後悔の念に襲われます。もし嵐が使者(ツナグ)に依頼をしなければ、それはそれで御園とギクシャクしたまま死別してしまったことを後悔したと思いますが、まだダメージは少なかったと思います。

 

しかし思い切って御園と面会し、文字通り一生忘れられない後悔と罪の意識を背負うことになってしまいます。

 

これは嵐の行動や性格によるところが大きいですが、嵐は舞台に立つたびに御園を思い出し、真冬の凍った道を見るたびに御園の言葉を思い出すのだと思うと、死者との面会とは幸せな事ばかりではないんだなと考えさせられました。

 

もし現実に使者(ツナグ)がいたとしたら、自分は依頼をしたいかと考えた時に私はすぐにNOと答えます。

 

会う相手は今のところいないのですが、仮に相手が夫や両親や子供だったとして、会う時間がたった一晩じゃ満足できず終わると思うんですよ。

 

別れたあとに「もっとこんなことを話せばよかった。こうすればよかった。でももう二度と会えない」とウジウジして、さっぱりとした晴れやかな気分で前向きに頑張ろうという気持ちにはなれないと思います。

 

せめて3回くらいで…と思いましたが、それだと全くありがたみがないですね。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

作中に何度も登場する、主人公(と呼んで良いのか迷いますが)の渋谷歩美が愛用しているダッフルコートがどんなものなのか非常に気になりました。

 

コムデギャルソンのジュンヤワタナベのダッフルコート…とのことですが、ブランド物に疎い私からすると「なんじゃそりゃ」とチンプンカンプンでした。

 

どんなものなのか見てみましたが、高校生の男の子が着るには割とカッチリしたデザインで重めのダッフルコートのように感じました。

 

ところどころにレザーを使ったおしゃれなデザインのものもあり、大人が着ても学生っぽくならない都会的な雰囲気のコートです。

 

お値段は中古でも50,000円以上とかなり高額。歩美が買ったものは15万円したと書かれていますが、新作のものならそれくらいはするでしょう。

 

そんなに高価なものなら「一生着なさいよ」と言われるのも無理はないですね。

 

映画版でも実際にジュンヤワタナベのダッフルコートが使われたそうですが、そちらは販売を終了しているようです。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

各章どれも濃い内容なのですが、私が一番好きなのは『待ち人の心得』の中で、キラリと会う事を恐れて喫茶店に逃げた土谷に対し、歩美が感情的になって「会わないと後悔する!」と説得するシーンです。

 

『親友の心得』で嵐と御園の同級生と、ある程度の素性は明らかになっていましたが、このシーンになって初めて歩美が血の通った人間なのだと気付かされます。

 

それまでは、感情が読み取れず生活感も全く無い、どこか浮世離れした印象があり、本当にこの世の者なんだろうかと疑ってしまうような少年でした。

 

それがあのシーンによって、渋谷歩美がちゃんとした感情を持った人間で、年相応の生意気さや子供っぽさを持っているのだと分かります。

 

その後に歩美側から見た使者(ツナグ)の話『使者の心得』が書かれており、あの雨の中で歩美の中でどんな葛藤があり、何を考えて土谷を怒鳴りつけたのかが分かります。

 

死者と会うことは生きる者のエゴとまで考えていた歩美でしたが、「甘えんなよ、会わないと後悔する」という言葉に歩美なりに出した結論が見て取れます。

 

執筆者 浅丸千代乃

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