
コンビニ人間の読書感想
平成28年上半期、第155回芥川賞受賞作です。
作者の村田沙耶香さんのプロフィールがなかなかに風変わりで、本と共にかなり話題になったため、記憶に残っている人も多いのではないでしょうか?
それはズバリ、小説の主人公と同じで「30代半ばの独身女性、職業はコンビニのアルバイト」というもの。
「どこが変わっているの?」、「じゃあ、何が普通なの?」…なんて言う声が聞こえてきそうですね。
実際、私もそう思ったひとりですが、実はこの疑問こそがこの小説の本質でした。
村田さんの経歴や経験が存分に活かされ、リアリティは抜群。
日本の現代社会の問題点、現代女性の中の闇がぎゅっと凝縮されているような気がします。
かなり重く暗いテーマを扱っていますが、文体はさらっと軽く、笑えるシーンすらあります。
これは村田さんの作風の妙だと思いました。
「周りから浮かないようにするために浮いてしまっている」主人公・古倉さんの不思議さも、こうした作品の雰囲気が際立たせています。
古倉さんは…ちょっと、いや結構、怖いです。
嬉しいとか、楽しいとか、寂しいとか、そんな感情が一切描かれていないので
人間味が無さすぎて、自分の考えからは程遠くて…。
どれだけ歩み寄っても分かり合えなさそうな部分が不気味に感じているのだと思います。
でも、まったくの他人事とも思えないのです。
そして、ちょっと羨ましくもあるのです。
「周囲にどう見られているか」、「空気を読まなきゃ」と気にすることは当たり前のマナーだと信じてきましたが、それはもしかして無意識のうちに自分を殺しているのかも…と気付かされました。
極端ながらも、少数派ながらも、きちんとしたオリジナルの思想を持つ古倉さんの姿に揺さぶられます。
白羽さんが登場した時には、ちょこっと期待もしたのです。
この人が古倉さんを救ってくれる王子様になるのかな?なんて、あっさりとこの期待は裏切られ、この後自分のアホさ、薄さが情けなくなりました・・
白羽さん、王子様どころか、どこまでいってもキモイです。
自分にとっての幸せってなんでしょうね?
普通ってなんでしょうね?
古倉さんも異常なまでにこだわる「普通な人」でなければ、この社会で生きていく資格はないのでしょうか?
古倉さんは確かに普通ではありません。
しかし、彼女の苦悩は多くの人が共感するものだというところに、今の世の中の難しさが垣間見えます。
不気味さを感じながらも、主人公の生活が気になって仕方ない、共感?というか、現代社会の矛盾や歪んだ常識に支配されている自分に気づかされたりもするけど、やっぱり、共感はできないです。
でも、この物語が、主人公が最後にどこに行きつくのか?
それが気になって、一気に読んでいました。
登場人物の古倉さんにも白羽さんの特異な生態にも衝撃を受けたのですが、何より作者の村田さんの視点が衝撃的です。
果たして村田さんにはこの世界がどう見えているのか…、正しさというものが分からなくなってきますし、自分の視界がどれだけ狭いのかを思い知らされました。
私は世間一般の「普通」に慣れきっています。
ただ、それを「正常」ということにすり替えないようにしようとこの小説を読んで決めました。
価値観は人それぞれ、正しさの基準も人それぞれ。
「普通」でない人を理解することはできなくても、そこに修正や矯正を求めることは決して誰にも許されることではないのです。
『コンビニ人間』著者:村田 沙耶香 160ページ
|
本の内容 あらすじ
第155回芥川賞受賞作!
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。現代の実存を問い、正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。
『コンビニ人間購入前の注意点』
今まさに生きづらさを感じている人は注意して下さい。
主人公にどっぷりと同調してしまうと余計に気分が暗くなると思います。
小説の世界に入り込みやすい作品ですが、フィクションはフィクションと割り切りましょう。また、ほっこり日常ドラマではなく内容も明るくない、でもラストはあっさり、とモヤモヤ感が残るかもしれません。
物語のキモ・ネタバレ
・主人公の古倉恵子は36歳、独身、職業はコンビニのアルバイト。就職はしなかった。
・恵子は幼い頃から自分が「普通」でないという自覚があり、どうすれば周囲の人間と同じ「普通の人」になれるかを考えている。
・そんな恵子が出会ったのがコンビニである。コンビニの仕事が自分に「普通」を与えてくれると気付き、恵子はコンビニ自体に没頭する。
・しかし、36歳独身未婚でコンビニアルバイトの恵子を、周りは心配する。が、実際は変な風に思っている。
・ある日、白羽という男性がコンビニにバイトとしてやって来る。ここから物語が動き出す。
・バイトを始めた目的は婚活と言った白羽だったが、ある事件をきっかけに解雇され、さらにその後、恵子と白羽は同居生活を始める。同棲していることにすれば便利だと恵子は思った。