
「レ・ミゼラブル」百六景 でよりリアルに蘇るレミゼの舞台
いわゆる「レミゼ」の解説書です。
著者の鹿島茂さんはフランス文学者。
そのフランスに関する深い知識でレミゼの世界を掘り下げ、実に興味深く私たちに教えてくれています。
本著を読むことで、違う楽しみ方が増えた感じです。
小説本編、それから舞台、映画…どれにもふれたことのない人には、チンプンカンプンな内容かもしれません。
「レ・ミゼラブル」については、私は小説ではなく、アマンダ・サイフリッド 、 ヒュー・ジャック・マン、アン・ハサウェイが出演したミュージカル映画(2012年に公開)を観て、とてつもなく感動したのです。
2回観たうえにdvdも買ってしまいました。
魂を揺さぶる民衆の力強さ、それがあの名曲「民衆の歌」でどーんと伝わって来て、ジャン・バルジャン、コゼットの母ファンテーヌ、そしてマリウスを陰で見守るエポニーヌ・・立場は違えど愛する者のために、自らは求めず、命を懸けて守り抜く姿は、あまりにも痛ましく、気高く、そして悲しくて・・涙が止まらなくなりました。
とにかく時代背景も相まってそれぞれの人生が壮絶過ぎます。
とてもすばらしく感動的なミュージカルなのですが、映画を観終わった後に残るのは、あの頃のフランスの思想や社会、庶民の生活がどんなだったのだろうか?という素朴な疑問です。
何せフランスの話なので、日本人にはどうしても感覚的にわからない部分ってありますよね。
あまりに大作すぎて頭の中のイメージが追いつかない、なんてこともあると思います。
そういう場合に、この本はかなり役立つはずです。
私たち日本人にはあまり馴染みのないフランスの歴史や文化、作者のユゴーの生涯まで、つまりレミゼの時代背景などを丁寧に補完してくれています。
レミゼという作品の中でわからないところがあった人はもちろん、そうでなかった人もまた深くその世界を味わうことができるでしょう。
特に、お金に関する解説が興味深く、第55章「マリユスの家計簿」ではマリユスの生活ぶりが細かく書かれています。
なぜここまで詳しく書かれているのか?その理由はマリユスこそがユゴー自身であり、マリユスの家計簿はユゴーの生活費そのものだったのですね。
とても興味深いです。
それにしても、ここの出て来る登場人物は誰もがお金が無いんですね・・。
貧困がテーマのひとつになっている小説ですから、当時の通貨や貨幣価値について知ることが出来ました。当時の耐性生活が、今よりも厳しく辛かったであろうことが想像できます。
貧困と言えば、当時フランスの子供がおかれていた環境は大変過酷なもので・・。
フランスの街が不衛生だったのはよく知られていることですが、浮浪児(文中の表現)と呼ばれる子供たちがたくさん居て、道路や橋の下に寝ていたり、、親が居ても家から逃げ出す子も居たとか?その中に居たのが、あのガブローシュなんですね。
映画ではこの子、どこの子?と思っていたのですが、この本を読んではじめてカブローシュがテナルディエ夫妻の子供だったことを知りました。
強い子どもしか生き残れなかった厳しい時代、そして修道院の役割など女性の地位が低かったことも分かりました。
また、この本には木版画の挿絵が多用されているところも、本著を読むメリットとしては欠かせません。
実は、この挿絵が本著の主役です。
挿絵「百六景」に沿って、著者の解説が進められていきます。
ちょうど区切りのような役目も果たしてくれているので、挿絵ベースの解説はとても読みやすく、わかりやすいです。
レミゼのあらゆるシーンが、鮮やかによみがえってきたりもしました。
何しろ、著者の鹿島さんのレミゼ愛がぎゅぎゅっと詰め込まれています。
鹿島さんのフランスに関する博識ぶりは、それだけでも読み応えアリです。
レミゼファンにとってはバイブルのような…、手に取って損はない一冊だと思います。
読後、またもう一度、レミゼの世界に戻りたくなりますよ。
『新装版 「レ・ミゼラブル」百六景 (文春文庫)』著者:鹿島茂
497ページ
本の内容
『新装版 「レ・ミゼラブル」百六景購入前の注意点』
小説本編ではないので、要注意。内容も、本編を楽しむのに必要なモノ、不必要なモノ、どちらもごちゃまぜで書いてあり、自分なりの取捨選択が大切かと思います。
本編に一度もふれたことのない人はあまり楽しめません。