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ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく

エッセイ

私の感想

この方、いつ見ても変わらないですよね。

いつ見ても、いつも「ホリエモン」。いつも「堀江貴文」。

 

他人の顔色を気にしたり、嫌われないように自分を抑えたりする自分としては、もう本当にすごいとしか思えません。

 

頭の悪い言い方ですが「頭が良いんだろうなぁ~」と(笑)

だから、読む方もナチュラルかつフラットな思考でこの本を向き合うことをオススメします。

 

どう感じるかは自分次第だし、堀江さんを好きになるか嫌いになるかも自由です。

ただ、世間一般の彼のイメージを先入観として持ったまま読み進めると勿体ないかな、とは思いました。

 

あと、改心とか懺悔とかをこちら側が期待するのもちょっと違うかなぁ。

やっぱりホリエモンはホリエモンです。

 

この本を書いて自分の中で変わったことは何か、尋ねてみたい気もします。

 

『ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく』
本の内容

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく [ 堀江貴文 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2017/9/4時点)

 

誰もが最初は「ゼロ」からスタートする。
失敗しても、またゼロに戻るだけだ。
決してマイナスにはならない。
だから、一歩を踏み出すことを恐れず、前へ進もう。
堀江貴文はなぜ、逮捕され、すべてを失っても、希望を捨てないのか?
ふたたび「ゼロ」となって、なにかを演じる必要もなくなった堀江氏がはじめて素直に、ありのままの心で語る、「働くこと」の意味と、そこから生まれる「希望」について。【本書の主な目次】
第0章 それでも僕は働きたい
第1章 働きなさい、と母は言った──仕事との出会い
第2章 仕事を選び、自分を選ぶ──迷い、そして選択
第3章 カネのために働くのか?──「もらう」から「稼ぐ」へ
第4章 自立の先にあるつながり──孤独と向き合う強さ
第5章 僕が働くほんとうの理由──未来には希望しかない
おわりに
(引用:Amazon.com)

 

 

自分にとって「働く」ということが何なのか、考えさせられました。初めはホリエモンの生い立ちや逮捕後の心境なんかを知りたかっただけなのですが、意外や意外、深かったです。

 

堀江さんは「寂しがり屋で、人とのつながりが欲しいから働く」と書かれていて、ちょっとビックリしました。そういうことを素直に言えるんだなぁ、と。あと「楽はせずにコツコツ積み重ねること」の話もイメージになかったですね。

 

良い意味で裏切られました。一度は時代の寵児と呼ばれた人のエッセイですから、一読の価値アリです。

 

読み進めていく中で面白かったのが、堀江さんのポジティブさがわかったことでしょうか。「仕事は我慢してやるものじゃない」、「遠くを見ない」といった考え方が、彼の経験から生まれたものというのも興味深かったです。

 

今を懸命に生きることの大切さを教えてもらいました。

 

この本を読んで彼の真似をしても彼のようにはなれないけど、堀江さんのエネルギーをちょっとだけ分けてもらえます。

 

堀江さんのクリエイティブな思考に影響されて「あぁしてみよう」「こうしてみよう」と脳が勝手に動き出す感じがしました。

 

止まっていられない、とにかく前に進み続ける人なんですね。「ゼロ」というタイトルも「一から始める」というよりは、「どんなに失敗してもゼロ以下にはならない」という意味が強いかなと思います。シンプルでストレートなメッセージが込められた一冊です。

 

5.読む必要がないと思われる人

 

この本の内容と、普段のホリエモンのイメージとのギャップが埋まらない人はストーリーの流れに乗れないと思います。

 

また、他人への思いや感謝なども、もう少し期待したかったところです。タイミング的に、好感度アップのための刊行と言われても仕方ないかもしれません。

『十角館の殺人』綾辻行人~変な館が舞台

小説 - ミステリー小説 - 小説

■この本を読むことになったきっかけ

 

ミステリが読みたくてしょうがなかった頃、何を読めば良いか分からず「とりあえず、なんとかの殺人とか、何々殺人事件ってタイトルのものを読もう」と思って手に取った作品のうちの一つです。

 

同時期に読んだもので『オリエント急行の殺人』があります。

 

特にこの作品に惹かれたのは、「変な館が舞台」というところです。

 

ミステリはある程度のリアリティも大事ですが、娯楽小説でもあるので現実では有り得ない設定も大事だと思っています。

 

この「変な館が舞台」という設定は、なんともミステリらしい有り得なさで、私の興味をそそりました。

 

■本のあらすじ

 

九州の某所に位置する角島。そこには風変わりな建築家、中村青司が建てた十角館という奇妙な館が建っていました。

 

かつては青屋敷という建物もありましたが、半年前に中村青司の妻は左手首を切り落とされた上に絞殺、使用人夫婦が殺害され、青司も焼死体で発見されるという四重殺人事件が起きて全焼してしまい、今は十角館だけが取り残されているのです。

 

当時働いていた庭師の行方は未だ不明で、四重殺人の犯人は庭師ではないかと警察は睨んでいました。

そんな中、ある大学のミステリ研究会のエラリイ、ポウ、ヴァン、ルルウ、カー、アガサ、オルツィは奇妙な事件が起きた角島に興味を持ち、旅行気分で角島に上陸しました。

一方、本土にいる元ミステリ研究会の江南(かわみなみ)のところに『中村千織は殺された』という告発文めいた手紙が届きます。

 

差出人は半年前に死んだはずの中村青司。そして中村千織とは、かつて所属していたミステリ研究会の飲み会で、急性アルコール中毒になって死んでしまった青司の娘でした。

 

突然の手紙を不審に思い、中村青司の弟にあたる中村紅次郎に話を聞きに行きます。そこで島田潔という男と出会い、手紙が誰に届いているのかを、同級生の守須(もりす)恭一の助けも借りながら調査し、過去の四重殺人そのものを探るようになります。

 

本土で四重殺人の真相が調査されている時、島では「第一被害者」「第二被害者」などと書かれた人数分のプレートが発見され、翌朝にはオルツィが絞殺死体となって発見されました。

 

部屋のドアには「第一被害者」のプレートが貼り付けられ、彼女の左手首は切断されていました。

その後、カーがコーヒーに含まれた薬物によって毒殺されます。疑心暗鬼になりながらも推理を重ね、外部からの犯行で中村青司は生きているのではないかという疑いを持ち始めます。

 

島での惨劇を知らない島田と江南は、過去の事件は「千織は青司の娘ではなく、紅次郎の娘だった。青司は妻を愛するあまり嫉妬に狂い無理心中をした」というのが真相であると結論付けた。

 

当初、島田たちも中村青司は生きていて焼死体は庭師のものだと疑っていたが、実際は中村青司が自ら灯油をかぶり火をつけたというものでした。

 

そして島ではついにルルウとアガサ、ポウが殺害されます。残ったエラリイとヴァンは館の中に隠し部屋などがあるかもしれないと、くまなく探します。予想は的中し、館の中に隠し部屋を見つけました。

 

そこには、かなりの年月が経った死体がひとつ転がっていたのです。

 

翌日、守須のところに島の所有者である親戚から電話がきます。
「島に行った“大学生6名全員”が死体で発見された」と……。

 

■感想

 

日本のミステリに新たなブームを巻き起こした、ミステリ界に衝撃を走らせた作品です。

本作は『そして誰もいなくなった』をかなり意識した作品になっており、所謂クローズドサークル物です。

 

しかしそれだけでなく、角島の大学生らの事件と、本土で島田たちが探っている過去の四重殺人事件が密接に絡み合い、それが最後に一つにまとまるという、なんとも美しい話のまとまり方をしています。

 

ミステリではほぼ御法度とも言える、建物に仕掛けられたカラクリもなんの違和感もなく受け入れられる話運びになっています。

 

さて、本作は文章で読者を騙す叙述トリックという手法を用いています。私はこれまで、それなりにミステリを読んできて叙述トリックを使った作品も色々と読んできましたが、『十角館の殺人』の叙述トリックが一番震えました。たった一行でこんなに体中がゾクっとするとは思いませんでした。

 

それだけ犯人に意外性があり、面白いどんでん返しになっています。

 

この一行の破壊力をさらに際立たせているのが、新装改訂版です。ページをめくると例の一行が出て来るように文章量を調整してあるので、ページをめくった後に衝撃を受ける事になります。心憎い演出ですね。

 

とても衝撃的で面白い作品なのですが、綾辻氏のデビュー作という事もあり、全体的に粗い印象があります。強いて挙げるとすれば「犯人の動機が弱い」という点です。

 

犯人と中村千織との関係が後半になり唐突に語られ、しかもそれが逆恨みっぽいというのが、ちょっと気になりました。

 

作中の重要人物である中村青司は、『十角館の殺人』から始まる『館シリーズ』すべてに関わっています。彼について詳しく知りたい方は是非『暗黒館の殺人』を読んでみてください。

 

かなり長い作品ですが、中村青司が何者かが分かる重要な作品になっています。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

角島に渡ったミステリ研究会の7名は、それぞれ海外の有名ミステリ作家の名前をあだ名にしています。名前の元ネタと代表作をちょっとだけ調べてみました。

・エラリィ(エラリー・クイーン)

代表作『ローマ帽子の謎』『Xの悲劇』等

・カー(ジョン・ディクスン・カー/カーター・ディクスン)

代表作『三つの棺』『緑のカプセルの謎』等

・ポウ(エドガー・アラン・ポー)

代表作『モルグ街の殺人』『早すぎた埋葬』等

・ルルウ(ガストン・ルルー)

代表作『黄色い部屋の秘密』『オペラ座の怪人』等

・アガサ(アガサ・クリスティ)

代表作『そして誰もいなくなった』『オリエント急行の殺人』等

・オルツィ(バロネス・オルツィ)

代表作『紅はこべ』『隅の老人』

・ヴァン(S・S・ヴァン・ダイン)

代表作『グリーン家殺人事件』『僧正殺人事件』等

 

いずれの作家も、ミステリや幻想小説の先駆者たちです。海外ミステリも読んでみたいなと思った方は、この中のどれかをまず読んでみる事をおすすめします。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

『十角館の殺人』に限らず、綾辻行人氏の小説全般に言える事なのですが、登場人物の喫煙者率が非常に高いです。

 

セブンスターやセーラムといった、今の若者が吸わないような銘柄がバンバン出てきます。作中では煙草が凶器に使われているシーンもあり、ただのアイテムではなくミステリらしい演出に一役買っています。

 

読んでみると、登場人物のほぼ全員が喫煙者だったような気がします。探偵役の島田潔にいたっては、元ヘビースモーカーで体を悪くして以来一日に一本だけという謎のこだわりを見せています。

 

ここまで「煙草を吸う」という事にこだわっている小説は、現在に至るまであまり見た事がありません。もしかしたら綾辻氏自身が愛煙家で、煙草に並々ならぬこだわりを持っているのかもしれませんね。

 

煙草を吸うタイミングや、煙草の吸い方などがとても細かく描写されており、良い意味でマニアックさを感じます。普段煙草を嗜まない人でも、読んでいると吸いたくなってしまう……そんな魔力があります。

 

しかし、登場人物のほとんどが大学生……なのに煙草は吸うわ酒はよく飲むわと、今と比べると時代を感じます。本作が世に出たのが1987年ですので、その当時は今ほど喫煙に対する風当たりは強くなかったのでしょうね。

 

煙草は犯人が誰かというヒントでもあります。気になる方は注意して読んでみてください。

オリエント急行の殺人~容疑者全員が犯人という結末

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■この本を読むことになったきっかけ

 

まだミステリを読み始めたばかりだったので、誰がどんな作品を書いているのか皆目分からない状態でした。

 

図書館に行って「とりあえず、何々殺人事件とか何々の殺人ってタイトルの本を読もう!」という行き当たりばったりな方法で見つけてきたのが、この作品でした。

 

■本のあらすじ

 

外国での仕事を終えた名探偵ポアロは、イスタンブール発のオリエント急行に乗ってヨーロッパに帰ろうとします。季節外れにも関わらず満席の列車には、出身国も性別も年齢も様々な人々が乗り合わせていました。ポワロは乗客の一人であるアメリカの大富豪、ラチェットという男から「脅迫状が来て命を狙われている。

 

私を守ってほしい」と頼まれますが、一目見てラチェットに嫌な感情を持ったポワロは、その頼みを断ります。

その日の夜、列車の個室の中でラチェットは刺殺されました。体には強弱様々な12の刺し傷。ポワロと現場検証した医師のコンスタンチン、ポワロの友人で国際列車会社の重役ブック氏は、乗り合わせた乗客たちの事情聴取を開始します。

「真紅のキモノを着た婦人を見た」
「従業員のボタンを見つけた」
「高価なハンカチが現場にあった」
「パイプが落ちていた」
「背の低い女のような声の車掌を見た」

などのヒントが聞けたものの、乗客たち全員に鉄壁のアリバイがありました。それは、乗客同士で保管し合っているもので崩すのが不可能なものばかり。

そんな折、ラチェットの正体が明らかになりました。彼はアメリカで起きた凶悪犯罪、アームストロング令嬢誘拐殺人事件の犯人だったのです。

 

今回のラチェット殺しにはこの過去の誘拐事件が絡んでいるとポワロは睨みます。

 

ポワロたちは熱心に事情聴取をし、次第に乗客たちがアームストロング家にゆかりのある人物たちだと判明します。そしてこの事件の犯人は、何らかの形でアームストロング家と関わっていた乗客すべてでした。

彼らは誘拐事件によって崩壊したアームストロング一家の復讐のために集い、ラチェットを殺害し、全員でアリバイを示し合わせていたのでした。

 

■感想、意見

 

ミステリには読者に対して、「フェアか」「アンフェアか」という問題が付きまといます。

フェアというのは「読み進めれば何となくでも犯人が分かる」「論理的な推理の上に成り立っている」というものです。

アンフェアとは極端に言ってしまうと「犯人は超能力を使いました!」「犯人は作中に一切登場しない誰々です」「犯人はこの本を読んでいるあなた自身です」といった感じのものです。読者が犯人というのは実際にあったような気がします。

本作は「ポワロ一行以外の全員が共犯」という奇想天外な結末で、多くの読者を驚かせてきた名作です。私自身はこの結末が非常に好きで、初めて読んだ時は驚きと同時に「あ。ミステリってこういうのもOKなんだ」とミステリというジャンルの幅広さにびっくりした記憶があります。

 

ミステリってもっとガチガチな堅苦しいものだと思っていたのですが、全員が犯人でも許されるんだなぁと感心してしまいました。

 

最近だと、偶然や勘違いが重なって事件が起こりました…みたいなミステリも多いですから、日々進化しているジャンルです。

 

しかし、本作はフェアかアンフェアかに分けるとしたら人によって異なると思います。全員が共犯なんて分かるか!と怒る人も少なくありませんので、アンフェアと判断する人もいるでしょう。

ですが私は『限りなくアンフェアに近いフェア』だと思っています。何故なら、序盤の数ページでなんとなくでも犯人が分かってしまう人がいるからです。

それはオリエント急行が「季節外れなのに満員で賑わっている」「鉄壁過ぎるアリバイ」という点です。かえって怪しい。

 

この点で少しでも違和感を覚えたら、事件の全体像が見えてきます。そう考えると、非常にフェアなミステリと言えるのではないでしょうか。

 

とかなんとか言いながら、私は初回さっぱり分からなくて感心してばっかりでした。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

物語のタイトルにもなっているオリエント急行ですが、1883年から2009年まで実際に走っていました。

 

経路は様々でしたが、ヨーロッパとバルカン半島を結ぶ豪華列車として人気を博しました。『オリエント急行の殺人』の舞台となったワゴン・リ社のオリエント急行は2009年に定期便が廃止されましたが、世界中にオリエント急行と名の付く豪華列車はたくさんあるようです。中国にもチャイナ・オリエント急行というものがあるようです。

ちなみに現在は、ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレスという名前でパリやロンドン、ベニス、イスタンブール、ブタペストなどを結ぶ豪華列車が走っています。

日本でも寝台列車の旅が近年人気を集めており、何十万もする豪華列車がありますね。一度でいいからこういう豪華な寝台列車で旅行をしてみたいものです。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

私が最も好きなのは、ラストの数ページ。乗客全員を集めて事件の真相を話すシーンです。

 

いかにも名探偵!といった犯人当てシーンなのですが、先述した通り「全員が犯人」という話ですので、ポワロが一人一人の素性を暴露していく場面は、非常にワクワクしてきます。ポワロが淡々としている分、余計にこっちは熱くなってしまいます。

 

また、ポワロは捜査中も「ちゃんとはっきりしたことが分かるまでは何も言えない」と簡単に推理を口にしない探偵ですので、終盤になるまで余計な推理が入り込まず真相に集中できます。

中でも、おしゃべりおばさんとしか見てなかったハッバード夫人の正体には驚かされました。

 

アームストロング家に縁がある人物というのは間違いないのですが、どういうポジションの人物かは実際に読んでからのお楽しみという事で…

 

余談ではありますが、この作品は2017年冬にリメイクされた映画が全米公開されます。
ラチェット役は『パイレーツオブカリビアン』シリーズでおなじみのジョニー・デップ。

 

ハッバード夫人役は『バッドマンリターンズ』『ヘアスプレー』出演のミシェル・ファイファー。ドラゴミノフ夫人役に『007』シリーズのM役でおなじみのジュディ・デンチ。

 

他にもペネロペ・クルスなど超豪華キャストです。

日本ではいつ頃公開になるか定かではありませんが、2017年11月に全米公開ですので、日本での公開は2018年に入ってからになるのでしょうか?
映画公開前に是非原作も読んでみて下さい。

『そして誰もいなくなった』衝撃的な結末

小説 - ミステリー小説 - 小説

■この本を読むことになったきっかけ

 

ミステリに目覚めた際に手に取りました。「ミステリといったらアガサ・クリスティ!」というなんとも単純な理由です。

 

クリスティ作品は他にも『オリエント急行の殺人』『アクロイド殺し』『ABC殺人事件』など名作揃いですので、何を読もうか迷ってしまうところではありますが、迷わずこれを選んだのは「タイトルがなんだかカッコイイ」という理由で、いわば直感のようなものでこの作品を読みました。

 

■本のあらすじ

 

8人の年齢も職業も異なる男女が、U・N・オーエンという謎の人物からの招待状を受け取り、イギリスのインディアン島に集まりました。島には2人の召使夫婦がいるだけで、招待したオーエン氏はいませんでした。

客人たちが到着したその日の夜、晩餐の席で彼らの過去の罪を告発する声が聞こえてきました。皆が怯えている中で、屈強な青年マーストンが毒殺されます。翌朝には召使夫婦の妻の方が眠っている最中に死亡しました。

相次いで2人が亡くなる異常事態の中、食堂に置かれた10体のインディアン人形が8体に減っており、壁に掛けられた童謡が2人の死にざまに似ていることに気付きます。

島を出ようにも連絡手段や移動手段がなく、全員が島に閉じ込められてしまいました。
この中に犯人がいる。そう互いに思ったまま、次々に童謡の通り殺害されていきます。

 

そしてヴェラとロンバードが2人きりになり、ヴェラは彼から銃を奪い射殺します。罪の意識と絶望感から、ヴェラはいつの間にか自室に用意されていた縄で首を吊って死んでしまいました。

後日警察が介入しても解決はしませんでした。しかし、海を漂っていた瓶の中に手紙は入っており、それによって真相が明らかになり、ようやく真犯人が誰かが判明することになります。

 

■感想、意見

 

恐らく、世界で一番有名なミステリ小説です。

現在のミステリ小説…特にクローズドサークル物や、見立て殺人、童謡などをモチーフにしたマザーグース殺人などの基礎を作ったのは、恐らくこの作品だと思います。

様々な作品に多大な影響を与えている本作ですが、世界中に無数に存在するクローズドサークル物、見立て殺人物のミステリには越えられない面白さがあると思います。

それは「話運びのシンプルさ」「良い意味での話の不透明さ」「全員死亡という衝撃」です。

 

話運びについては、様々なミステリが世に溢れている現代だからこそ実感できることだと思うのですが、見知らぬ男女数名が謎の人物に招待され、孤島に閉じ込められてそこで殺人が起きる…という単刀直入さが読者を引き込んでいると思います。

 

殺人の前段階が長すぎるとだれてしまいますからね。

次に話の不透明さについてですが、童謡になぞらえて一人また一人と殺されていくのに、まったく犯人も分からなければ手掛かりもよく分からない…という不気味な謎が「どんな結末になるのか予想がつかない!」とワクワクさせられます。

そして、ミステリでは異例の「全員死亡」という衝撃の結末。

 

途中までは「トマスが犯人だろう」とか「医者のアームストロングが怪しい」とかあれこれ推理するんですが、容疑者が次々と消えていき、最終的にヴェラだけが残り、しかも彼女も首を吊って死んでしまうので「全員が被害者なら、誰が犯人なのか?」とわけがわからなくなってきます。

 

ミステリと言うと、何名か生き残るのが王道なのですが、本作は敢えて全員を被害者にするという大胆な試みをしています。

 

ちなみに私は、読んだ当初は一番最初に殺されたマーストンか医者のアームストロングが犯人だと思っていました。

理由は「一番出番が少ないのはかえって怪しい」「医者ってだけでなんだか怪しい」という論理の欠片も無い理由です。当然、大外れでした。

 

■本を読んでいて自分が初めて知ったモノ、場所、言葉など

 

これだけ有名な作品ですので、世界中で映像化や舞台化がされています。

 

本場イギリスやアメリカ、ロシアで映像化されてきましたが、2017年3月に日本で初めてドラマ化されました。

仲間由紀恵、向井理、柳葉敏郎、沢村一樹など出演者が全員主役級という豪華さでした。渡瀬恒彦さんの遺作でもあります。

日本で今まで映像化されてなかったというのが意外でしたが、初のドラマ化ということで非常に丁寧に作られていました。ストーリーの大筋は原作通りです。

違う点は、島の名前が「兵隊島」になっていること。スマートフォン、ドローンといった現代の道具が登場すること…スマートフォンが使えなくなるシーンが付け加えられています。
他にも原作と異なる点はありますが、どれも現代の日本に合わせたアレンジをしており、最後もまで楽しんで見ることが出来ました。

 

『そして誰もいなくなった』のドラマ化は初ですが、この作品に影響を受けた横溝正史の『獄門島』、米澤穂信の『インシテミル』は映画化されています。

『インシテミル』は特に『そして誰もいなくなった』を意識して作っている小説なのですが、映画は「藤原竜也や綾瀬はるかを主演にしてるのにどうしてこんなにつまらなくなったのか」と思ってしまうほど酷いものでした…。

 

■本の中で気になった言葉、セリフ 1シーン

 

主人公(と呼んでも差し支えないポジションだと思います)のヴェラがロンバードから銃を奪い、彼を撃ち殺し、とうとう一人になってしまってから屋敷で首を吊るまでのシーンが、本作の山場であり、私の一番好きなシーンです。

ロンバードが撃たれて死ぬことも、ヴェラが絶望感と罪悪感で用意された縄で自然と首を吊ることも、すべて犯人の思惑通りというところに恐ろしさを感じますし、忘れられない強烈なインパクトを与えるシーンだと思います。

初めて読んだ時から時間が経っていて、童謡の中身や犯人が誰だったか忘れてましたが、このシーンだけはよく覚えていました。